〜〜メルマガ有機化学〜〜

 2008年第23号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.今週のURL 6.編集後記


 ☆今週の反応・試薬 〜 クロロ炭酸イソブチル

 アミド化・エステル化反応には、反応性の高い酸無水物がよく用いられる。例えばアミンをアセチル化する際には無水酢酸がよく用いられる。

 Ac2O + HNR2 → AcNR2

 しかしカルボン酸側が貴重である場合には、このような対称酸無水物を使うとカルボン酸の半分を無駄にすることになる。そこでクロロ炭酸イソブチルを用い、混合酸無水物にして反応を行う方法がある。

 この時、通常の酸塩化物を用いるとそちら側にアミンが反応する可能性があるが、イソブチルオキシカルボニル基は電子密度が高いため、目的とするカルボン酸とだけアミンが縮合した生成物が得られる。この方法はWSCD-HOBtなどのよく用いられる方法に比べても反応性が高く、他の手段でうまく行かない時にもきれいにアミドが得られることがある。

 また混合酸無水物をNaBH4で還元することにより、アルコールが得られる。この方法は穏和な条件でカルボン酸からアルコールが一段階で得られ、有用である。

 DME溶媒に、カルボン酸とN-メチルモルホリン(NMM)1当量ずつを溶解し、-10度に冷却する。クロロ炭酸イソブチル1当量をゆっくり滴下すると、NMM塩酸塩が析出する。これを素早くろ過し、DMEで洗い込んでろ液を0度に冷却する。NaBH4(1当量)水溶液をゆっくりと加える(発泡する)。通常の後処理を行い、アルコールを得る。

 ※慣れれば3分で収率よくアルコールが得られるのでよく使っていました。温度管理と、発泡にだけ気をつければたいてい行けます。アミノ酸からもラセミ化することなくアミノアルコールが得られます。


 ☆注目の論文

・全合成

Chemical Synthesis and Biological Evaluation of Palmerolide A Analogues

K.C. Nicolaou, Gulice Y. C. Leung, Dattatraya H. Dethe, Ramakrishna Guduru, Ya-Ping Sun, Chek Shik Lim, and David Y.-K. Chen
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:10.1021/ja802803e

 マクロライドの誘導体を多数合成しての活性検討。Nicolaouがシンガポールの研究機関に招聘されての結果のようで、奴らは本気だなという感じです。

Total Synthesis of (?)-Dactylolide and Formal Synthesis of (?)-Zampanolide via Target Oriented β-C-Glycoside Formation
Fei Ding and Michael P. Jennings
J. Org. Chem., ASAP DOI:10.1021/jo8009853

普通にマクロライドの全合成。雑誌会向きなのでは。

Short Formal Synthesis of (-)-Platencin (p NA)
Konrad Tiefenbacher, Johann Mulzer
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200801441

これだけでAngewandteかよ!的な、アイディア賞ものの合成。

・反応

Facile Heterolytic H2Activation by Amines and B(C6F5)3
Victor Sumerin, Felix Schulz, Martin Nieger, Markku Leskela, Timo Repo, Bernhard Rieger
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200800935

かさ高いアミンとB(C6F5)3による水素分子の切断・活性化。

Chemoselective Peptide Cyclization by Traceless Staudinger Ligation (p NA)
Rolf Kleineweischede, Christian P. R. Hackenberger
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200801514

Staudinger反応を利用したペプチドの環化反応。

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 ・固体のt-BuOKにアセトンまたは2-ブタノン0.5mlを滴下したところ、しばらく誘導期間を置いて発火した。

 あまり意識しませんが、塩基とアセトンの混合は危険です。実験でやらなくとも、廃棄処理などの時にうっかりやってしまいそうな組み合わせです。気をつけて処理しましょう。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p26より)


 ☆館長の本棚

iPS細胞  ヒトはどこまで再生できるか? (田中幹人編著 日本実業出版 1575円)

 話題のiPS細胞に関する本が早くもいくつか出版されていますが、これが一番まとまっていると感じました。iPS細胞完成までの経緯、完成後の波紋、今後の問題点、これによって何ができるか、社会的影響などがひとわたり理解できます。生物学方面の研究室や学会のの雰囲気なんかもうかがい知ることができ、個人的に興味深かったです。iPS細胞をめぐる行政や特許制度の問題点にもかなりのページが割かれており、いろいろと考えさせます。


 ☆今週のURL

 化学関係のHP、ブログ、動画などランダムに。

 Evans pKa table(PDFファイル)

 まずは有名どころから。ハーバード大学Evans研究室のpKa表です。かなりの数が掲載されていますので、たいていこの表一枚で困らないのではと思います。筆者はプリントアウトして壁に貼ってました。


 ☆編集後記

 一応サイエンスライターを名乗っている関係上、話題のiPS細胞について全く知りませんでは済まないなと思い、上記の本など読んでみました。要するに4つの遺伝子を細胞に導入することで、DNAが初期状態になって万能性を獲得すると。となると遺伝子でなく低分子で同じことができないもんか、と元MedChemとしては当然考えるわけですが、もうすでにこのへんもかなり進んでいるのですね。2遺伝子と、ある低分子(詳細未発表)を使うことで、細胞の初期化が起こせることがスクリプス研究所から発表されているそうです。数年内に低分子のみで万能細胞を作る予定だそうで、この辺の進歩は恐ろしいなと思うと同時に、また全部アメリカに持って行かれてしまうのか、と悔しい気持ちもないではありません。

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