〜〜メルマガ有機化学〜〜

 2008年第20号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記


 ☆今週の反応・試薬 〜 (トリフルオロメチル)トリメチルシラン

 トリフルオロメチル基は医薬などによく見られる部分構造だが、CF3をアニオンの形で導入するのは難しかった(CF3-MgXやCF3-Liは脱離・分解しやすい)。1989年、Prakash・OlahらはCF3SiMe3にフッ化物イオンを作用させて、ケトンやアルデヒドへの付加が行えることを報告した(JACS 111,393 (1989) DOI:10.1021/ja00183a073)。

 CF3SiMe3はCF3BrとTMSCl、(Et2N)3Pを-40度で反応させることで得られるが、現在は市販もされている。沸点45度の安定な液体であり、空気中で取り扱うことができる。
 この反応の不斉化も様々に試みられていたが、あまりよい結果を与えなかった。最近になり、シンコナアルカロイドを2つつないだような相間移動触媒を用いることにより、かなり高い不斉収率でトリフルオロメチル化が行えることが示された。

 総説:有合化 66, 215 (2008)

 ※トリフルオロメチル基は化合物の物性を大きく変えますので、この反応を知っていると結構レパートリーが広がります。


 ☆注目の論文

・全合成

Concise Synthesis of the Tricyclic Core of Platencin (p NA)
Sang Young Yun, Jun-Cheng Zheng, Daesung Lee
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200801587

 注目の抗生物質プラテンシンのかご状骨格をエレガントに合成。

・反応

Mild and Efficient H/D Exchange of Alkanes Based on C-H Activation Catalyzed by Rhodium on Charcoal
Tomohiro Maegawa, Yuta Fujiwara, Yuya Inagaki, Hiroyoshi Esaki, Yasunari Monguchi, Hironao Sajiki
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200800941

 Rh/Cを触媒とし、H2雰囲気下重水中で加熱することで、何の変哲もないアルカンのC-Hが全てDに置き換わる。重水素ラベル化合物合成に大いに役立つのでは。

Direct Palladium-Catalyzed C-3 Arylation of Free (NH)-Indoles with Aryl Bromides under Ligandless Conditions
Fabio Bellina, Francesca Benelli, and Renzo Rossi
J. Org. Chem. ASAP DOI:10.1021/jo8007572

無置換インドールと臭化アリールから3-アリールインドールが直接合成できる。

Intramolecular Pd(II)-Catalyzed Oxidative Biaryl Synthesis Under Air: Reaction Development and Scope
Benoit Lie?gault, Doris Lee, Malcolm P. Huestis, David R. Stuart, and Keith Fagnou
J. Org. Chem. ASAP DOI:10.1021/jo800596m

これもC-H活性化。ジアリールアミンからカルバゾールを、ジアリールエーテルからジベンゾフランへの分子内酸化的カップリング。

(α-Aminoacyl)amino-Substituted Heterocycles and Related Compounds
Alan R. Katritzky, Bahaa El-Dien M. El-Gendy, Ekaterina Todadze, and Ashraf A. A. Abdel-Fattah
J. Org. Chem. ASAP DOI:10.1021/jo8007379

ヘテロアリールアミンのN-アシル化。普通の方法では反応性が低く、うまくいかないことが多いので、覚えておく価値あり。

・超分子

Conformational Solvatochromism: Spatial Discrimination of Nonpolar Solvents by Using a Supramolecular Box of a π-Conjugated Zinc Bisporphyrin Rotamer (p NA)
Junko Aimi, Yuka Nagamine, Akihiko Tsuda, Atsuya Muranaka, Masanobu Uchiyama, Takuzo Aida
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200801332

 亜鉛ポルフィリン錯体をベースにした直方体型の錯体が、溶媒によってコンフォメーションを変え、吸収波長も変化する。次から次へとよくもいろいろな発想が出てくるものだ、と毎度感心します。

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 学生実験室の流しが、深夜突然爆発した。調べた結果、その日に実験に使ったアンモニア水とヨウ素を流しており、これがパイプ内で反応して三ヨウ化窒素を発生し、これが爆発したらしい。

 アンモニアもヨウ素もさほど危険な試薬という感覚はありませんが、混合することによって思わぬ危険がありえます。これに限らず試薬の整理をしている時など、多くの試薬が廃液タンクの中で混ざりますので予想もしないような危険物ができることがあります。特に気を配るべきでしょう。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p60より)


 ☆館長の本棚

「白い光」のイノベーション―ガス灯・電球・蛍光灯・発光ダイオード (宮原諄二著  朝日新聞社 1200円)

 タイトル通り技術史の本。資料として買ったのですが、地味に面白いです。新しい技術が出てくると、古い技術はそれに取って代わられまいとして急速に進歩し、最後の輝きを放って新技術の普及を遅らせることが多いのだとか。本は明かりについての変遷を辿っていますが、自分の仕事に置き換えて考えると面白く読めるのではと思います。


 ☆編集後記

 皆様はプリントアウトした論文の整理をどうしていますでしょうか。筆者は学生時代からずっと論文にパンチで穴を開け、A4のファイルかフォルダーに綴じていたのですが、最近「山根式袋ファイル」という方式を知ってこれに切り替えています。といっても角形2号の封筒にインデックスのラベルを貼り、そこにホチキスで留めた論文をジャンルごとに放り込んでいくだけです。見つけやすいし移動も楽だし、何と言っても安上がりです。
 人によってはPDFファイルで保存し、ファイル管理ソフトを使ったりいろいろ工夫しているようですが、みなさんはどうしていますでしょうか。よいアイディアがあったらご一報いただければ幸いです。

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