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 2009年 第2号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記
有機化学美術館更新情報: (分館)タミフル、デンドリマー、そして切腹分子 (1/13)


 ☆今週の反応・試薬

 ・Ugi反応

 

 カルボニル化合物・アミン・イソシアニド・カルボン酸の4成分が縮合し、ジアミドを与える反応。1959年に、I.Ugiが報告した。4成分が一挙に結合する反応は珍しい。

 反応機構としては、まずカルボニルとアミンからイミニウムイオンが生成し、そこにイソシアニドとカルボン酸が相次いで付加、アシル基が分子内で転位するという複雑なメカニズムである。

 通常、イソシアニド以外の3種を混合・冷却しておき、ゆっくりとイソシアニドを滴下するという手順で行われる。発熱反応であるため、滴下は慎重に行わねばならない。水を適量含んでいると反応は速く進行するといわれる。
 ふつうUgi反応といえば、カルボン酸を求核剤として用い、ジアミドを作る反応を指す。しかし代わりにアジドを用いればテトラゾール誘導体が、イソシアナートを用いればヒダントインイミドが、水を使えばアミノ酸アミドが得られる。詳しくは下記参考書を参照。

 この反応は4成分が効率よく縮合するため、成分を変化させることで一挙に多くの化合物を作り出せる。できる化合物も医薬成分でよく見られるアミドであるため、医薬創出の際のライブラリー合成などに用いられる例が増えている。

 全合成では福山透らのエクチナサイジン743などに、医薬品合成ではメルクのインジナビル(抗エイズ薬)に用いられている。

※ただこの反応の問題は、イソシアニドの激烈な悪臭です。分子量の大きなイソシアニドを用いて悪臭を防ぐなどの方法もとられるようです。

参考:人名反応に学ぶ有機合成戦略 P462
画像はWikipediaより


 ☆注目の論文

・反応

Catalytic Homologation of Cycloalkanones with Substituted Diazomethanes. Mild and Efficient Single-Step Access to α-Tertiary and α-Quaternary Carbonyl Compounds
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI: 10.1021/ja809220j

 ジアゾ化合物によるケトンの増炭反応。Sc(OTf)3を用いるのがミソ。シンプルにして使いでがありそうだけど、官能基許容性がどこまでか?

Direct Cross-Coupling Reaction of Simple Alkenes with Acrylates Catalyzed by Palladium Catalyst

 単純なアルケンと、アクリル酸エステルとの酸化的クロスカップリング。酢酸銅・酢酸パラジウム・酸素ガスの組み合わせで、ソルビン酸誘導体が合成可能。

・全合成

Oxidative Cyclization Reactions of Trienes and Dienynes: Total Synthesis of Membrarollin
J. Org. Chem ASAP DOI: 10.1021/jo802012a

 連続したTHF環を持つ天然物合成。過マンガン酸でサクサク環化。

・その他

Unsung Hero Robert C. Gallo
Giovanni Abbadessa, Roberto Accolla, Fernando Aiuti, Adriana Albini, Anna Aldovini, Massimo Alfano, Guido Antonelli, Courtenay Bartholomew, Zvi Bentwich, Umberto Bertazzoni, Jay A. Berzofsky, Peter Biberfeld, Enzo Boeri, Luigi Buonaguro, Franco M. Buonaguro, Michael Bukrinsky, Arsene Burny, Arnaldo Caruso, Sharon Cassol, Prakash Chandra, Luca Ceccherini-Nelli, Luigi Chieco-Bianchi, Mario Clerici, Sandra Colombini-Hatch, Carlo de Giuli Morghen, Andrea de Maria, Anita de Rossi, Manfred Dierich, Riccardo Dalla-Favera, Antonina Dolei, Daniel Douek, Volker Erfle, Barbara Felber, Simona Fiorentini, Genoveffa Franchini, Jonathan M. Gershoni, Frances Gotch, Patrick Green, Warner C. Greene, William Hall, William Haseltine, Stephens Jacobson, Lars O. Kallings, Vaniambadi S. Kalyanaraman, Hermann Katinger, Kamel Khalili, George Klein, Eva Klein, Mary Klotman, Paul Klotman, Moshe Kotler, Reinhard Kurth, Alain Lafeuillade, Michelangelo La Placa, Jonathan Lewis, Flavia Lillo, Julianna Lisziewicz, Anita Lomonico, Lucia Lopalco, Franco Lori, Paolo Lusso, Beatrice Macchi, Michael Malim, Leonid Margolis, Phillip D. Markham, Myra Mcclure, Nancy Miller, Maria C. Mingari, Lorenzo Moretta, Douglas Noonan, Steve O'Brien, Takashi Okamoto, Ranajit Pal, Peter Palese, Amos Panet, Giuseppe Pantaleo, George Pavlakis, Mauro Pistello, Stanley Plotkin, Guido Poli, Roger Pomerantz, Antonia Radaelli, Marjorie Robertguroff, Mario Roederer, Mangalasseril G. Sarngadharan, Dominique Schols, Paola Secchiero, Gene Shearer, Antonio Siccardi, Mario Stevenson, Jan Svoboda, Jim Tartaglia, Giuseppe Torelli, Maria Lina Tornesello, Erwin Tschachler, Mauro Vaccarezza, Angelika Vallbracht, Jan van Lunzen, Oliviero Varnier, Elisa Vicenzi, Harald von Melchner, Isaac Witz, Daniel Zagury, Jean-Francois Zagury, Giorgio Zauli, and Donato Zipeto
Science 9 January 2009: 206-207.

 なんじゃこの共著者数は、と思ってしまいますが、論文ではなくScience誌へのレター。2008年ノーベル医学生理学賞の選に洩れたロバート・ギャロの功績を讃える内容。エイズウイルスの発見についてはフランスのモンタニエとこのギャロの間で騒動があり、ギャロが悪役になってしまったのですが、やはり一流の研究者ではあるのだなと。興味のある方は調べてみて下さい。面白いです。

※興味深い論文などありましたら、mmorg-chem.orgまで(@を半角に変換してお送り下さい)情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。

このほど、筆者が作成に関わりました「創薬化学カレンダー」を発売元からいただきましたので、情報をお寄せいただいた方にプレゼントしたいと思います。3報お送りいただいた方、先着8名ということで。できれば論文の内容に関するコメントもお願いします。どっと一気にまとめて送ってこられると大変なので、できればぼちぼちと。


 ☆安全な実験のために

 Swern酸化を行おうと、室温でDMSOと塩化オキサリルを混合したところ、爆発的に分解した。

 定番の反応であるSwern酸化ではありますが、実験操作は決して簡単な部類ではありません。DMSOと塩化オキサリルは-60℃以上では激しく分解するので低温でゆっくり加える必要があります。また最後のトリエチルアミンによるクエンチの際も、大量のCO及びCO2が発生するので、大量スケールの場合は慎重に滴下しないと危険です(大噴出して研究室全員脱出、という事態を筆者も2度ほど体験しました)。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.239より)

 ☆館長の本棚

 アイデアのちから チップ&ダン・ハース著 日経BP社 1680円

 タイトルからすると発想法の本かと思ってしまうのですが、そうではなくプレゼン術に近い本です。優れたアイディアをいかに相手の記憶に残るよう伝えるか、著者らは以下の6つがポイントであると説きます。
(1)単純明快である(Simple)
(2)意外性がある(Unexpected)
(3)具体的である(Concrete)
(4)信頼性がある(Credible)
(5)感情に訴える(Emotional)
(6)物語性(Story)
で、この頭文字をつなげてSUCCESs(サクセス)だそうで、実によくできています。
ポップコーンに含まれる飽和脂肪の量の多さを訴えるためソニーの井深大がトランジスタラジオを作らせるため、NBAが選手のエイズ蔓延を防ぐため、いったいどんなアイディアでメッセージを伝えたか。読むだけで「なるほどなあ」とうなり、自分のプレゼンに生かしたくなること請け合いです。一つ一つの事例が面白く、説得力があるため、単に読み物として読んでも楽しめる、実に優れた一冊です。


 ☆編集後記

 今年の冬はわりに冷えるようで、ここ筑波でも水たまりが凍っているのをよく目にします。幸い好天が続き、雪などはまだ降っていないので助かっていますが、みなさんのところではいかがでしょうか。

 さて冬といえば、困るのは溶媒が凍ることです。主な溶媒の融点は、tert-ブチルアルコール25℃、DMSO18℃、酢酸17℃、p-キシレン13℃、ジオキサン12℃、シクロヘキサン7℃、HMPA7℃、ベンゼン5℃といったところで、朝実験室に来てベンゼンが凍っていると「だいぶ寒かったんだなあ」と実感したりしたものです。この季節、凍ってしまったNMR用の重DMSOを、ヒートガンであぶって溶かす光景が風物詩なのではないでしょうか。

 一般の人からすれば妙に思われそうですが、溶媒で季節感を感じるのも化学者ならではでしょう。友人は「ベンゼンは溶けたか DMSOはまだかいな」なんぞと妙な歌を歌っていたりしました(笑)。

 次にDMSOが溶ける頃には、大学を卒業して就職するなど、新たな環境へ旅立つ方も多いと思います。最初は誰しも大変ではありますが、ケミストのやることは基本的に実験ですので、すぐ慣れると思います。数ヶ月で基本をつかんで、エーテルが沸騰する季節にはもう一人前――となるよう、密かにエールを送らせていただく次第です。

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