〜〜メルマガ有機化学〜〜

 2008年第18号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記

 有機化学美術館更新情報
分館:新刊の予定(6/3) 当メルマガ編集長の2冊目の著書「化学物質はなぜ嫌われるのか」6月25日発売予定です。


 ☆今週の反応・試薬 〜 Ullmann縮合

 1904年ドイツのFlitz Ullmannは、ハロゲン化アリールとフェノールを銅粉の存在下加熱することでビアリールエーテルが合成できることを発見した。またその2年後Irma Goldbergは、アミドとハロゲン化アリールをCuI存在下で加熱することで、ビアリールアミンが得られることを発見した。このためこれらの反応をまとめてUllmann-Goldberg反応と呼ぶことがある(余談ながら、この二人は後に結婚した)。

 Ar-X + Ar'-YH → Ar-Y-Ar'
(X=ハロゲン、Y=NR,O,S)

 基質としては、アミン・アミドの他、ピロールやイミダゾールなどの含窒素ヘテロ環なども使用可能である。フェノールを用いる場合には炭酸カリウムの添加が効果的である。

 原型のUllmann縮合は高熱を必要とし、銅粉または銅塩を当量以上使う必要があった。このため不安定な基質には使いにくく、また反応後の後処理も厄介で廃棄物がたくさん出るなど、欠点の多い反応であった。しかし近年この反応には改良が進み、操作性・収率とも向上している。

 Buchwaldらは、フェナントロリン・N,N'-ジメチルエチレンジアミンなどのジアミン類をリガンドとして加えることにより、銅塩の使用量を触媒量に減らせることを報告した。詳細については、こちらの総説を参照。

 ※特にアニリン誘導体を作る機会の多い製薬会社のケミストには、上の総説は必携です。後処理の爽やかさは比べものになりません。


 ☆注目の論文

・全合成

Synthesis of Marine Alkaloids from the Oroidin Family
Hans-Dieter Arndt, Matthias Riedrich
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200801793

 オロイジンアルカロイド全合成のまとめ。現代全合成の妙技を味わえ。

Enantioselective Total Synthesis of theMelodinusAlkaloid (+)-Meloscin
Philipp Selig, Thorsten Bach
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200800693

 インドール系アルカロイド全合成。キーステップは「そういうことが起こるもんですか」としか言いようがない。

New, Efficient Synthesis of Oseltamivir Phosphate (Tamiflu) via Enzymatic Desymmetrization of ameso-1,3-Cyclohexanedicarboxylic Acid Diester
Ulrich Zutter, Hans Iding, Paul Spurr, and Beat Wirz
J. Org. Chem. ASAP DOI:10.1021/jo800264d

 タミフルの全合成、今度は本家本元ロシュ社から。芳香環を還元して作るという技に出ています。通算収率30%、カラムなしで行けるので量産も可能とのこと。これがプロセスの力か。

・反応

Iron-Catalyzed Sonogashira Reactions (p NA)
Monica Carril, Arkaitz Correa, Carsten Bolm
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI:10.1002/anie.200801539

 先日ブログの方でも取り上げましたが、鉄を使ったカップリング反応が急進展しています。今度は薗頭カップリングができるようになったとのことでいやはや。これもジアミンリガンドの添加がポイント。

Mild, Efficient Friedel?Crafts Acylations from Carboxylic Acids Using Cyanuric Chloride and AlCl3
Cyrous O. Kangani and Billy W. Day
J. Org. Chem. ASAP DOI:10.1021/ol800752v

 塩化シアヌリルとカルボン酸から系内で酸クロを発生させ、室温短時間でFriedel-Crafts反応を行う。地味にいいかも。

・超分子

Enhanced Conjugation around a Porphyrin[6] Nanoring
Markus Hoffmann, Joakim Karnbratt, Ming-Hua Chang, Laura M. Herz, Bo Albinsson, Harry L. Anderson
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200801188

 ポルフィリン環状6量体のテンプレート合成。ええこういうのが大好きですとも。

・材料

Photomobile Polymer Materials: Towards Light-Driven Plastic Motors
Munenori Yamada, Mizuho Kondo, Jun-ichi Mamiya, Yanlei Yu, Motoi Kinoshita, Christopher J. Barrett, Tomiki Ikeda
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200800760

 アゾ基の光によるシス-トランス異性化を利用し、光で伸び縮みするプラスチックを作成。これを使って、光駆動モーターを作ろうというもの。これは面白い!

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 今回はフッ化水素酸(HF)について。この試薬は使用頻度の高いものでは最も危険な試薬の一つでしょう。
浸透力が高いため、皮膚につくとすぐにはそれほどの痛みがないのに、じわじわと染み込み、ダメージを与えます。カルシウムと結合しやすいため、血中カルシウム濃度を徐々に引き下げて低カルシウム血症を起こし、元気に見えたものが数時間後に突然死に至る場合もあります。

 手袋の着用は当然ですが、ゴム手袋でも小さな穴から浸透してしまったケースもあり、なるべく新しいものを選ぶべきです。もし皮膚に付着した場合は大量の水で洗い流して氷で冷やし、グルコン酸カルシウムの軟膏を塗ります。なければ硫酸マグネシウムの溶液に浸けておいても効果があります。

 シリル基の脱保護などには、比較的危険性の低いHF-ピリジン溶液やHF-トリエチルアミン溶液なども市販されているので、こちらの使用を先に検討すべきでしょう。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.248より)


 ☆館長の本棚

脱DNA宣言―新しい生命観へ向けて (武村政春著 新潮新書 680円)

 DNA関連の著書をいくつも執筆している、武村氏の本。題名には出てきませんが、主役はRNAです。今まで生命の社役はDNAで、RNAはその使いっ走りに過ぎないのではと思われていました。しかし近年RNAの新しい役割が次々に明らかになり、「RNAルネッサンス」と呼べる状況になっています。といいつつ門外漢にはそのあたりの状況がわかりにくいのですが、この本はわかりやすく「RNAの現在」を説き明かしてくれます。一般読者には難しいかもしれませんが、この辺に関心のある化学研究者にはぴったりなのではと思います。


 ☆編集後記

というわけで2冊目の著書「化学物質はなぜ嫌われるのか」がようやく発売の運びとなりました。HP「有機化学美術館」に掲載した化学物質・医薬・健康食品などに関する記述を、大幅加筆してまとめたものです。タイトルその他なかなか難産でしたが、力を入れた内容なのでぜひ手にとっていただきたく。

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