〜〜メルマガ有機化学〜〜

 2009年 第15号 もくじ

1.注目の論文 2.安全な実験のために 3.館長の本棚 4.編集後記

有機化学美術館更新情報: (分館) 有機化学の美術


 ☆注目の論文

・全合成

Total synthesis of eudesmane terpenes by site-selective C?H oxidations
Ke Chen & Phil S. Baran
Nature 459, 824 (2009)

 ヒドロキシ基のγ位を酸化して1,3-ジオールにする手法(論文こちら)の応用で、酸化度の高いテルペンを作る。天然物を変換する創薬研究なんかに使えないでしょうか?

Water Overcomes Methyl Group Directing Effects in Epoxide-Opening Cascades
Christopher J. Morten and Timothy F. Jamison
J. Am. Chem. Soc., Article ASAP DOI:10.1021/ja903581c

 2007年Scienceに報告され、Boldwin則では不利とされていた6-endo-tet環化を水中で行った例の反応機構です。水が1分子ではなく2分子水素結合することでコンフォメーションが決まり、6-endo型が進むそうです。
また、やはり環化がなされるのはエーテル環であり、水素結合が重要であることがここからもわかります。もちろん最初に6員環ができていることも重要ですね。これは前回の論文の内容ですが。

 ご推薦いただきました論文。長いこと掲載せず相済みませんm(__)m。以前も話題を呼んだポリエーテル環化反応の機構解明編です。この話題については筆者なんぞより詳しい方が書いて下さっているので、こちら及びこちらなどご参照下さい。

・超分子

Hybrid organic-inorganic rotaxanes and molecular shuttles
Chin-Fa Lee, David A. Leigh, Robin G. Pritchard, David Schultz, Simon J. Teat, Grigore A. Timco & Richard E. P. Winpenny
Nature 458, 314 (2009) doi:10.1038/nature07847

珍しい超分子化学の論文がみつかったので、紹介させていただきます。
有機化合物の軸と、無機化合物の環から形成されるロタキサンです。
論文タイトルの通り、ロタキサン合成を有機物と無機物を混合する手法として
アピールされています。

この方法論は昨年、相田先生が報告されたAngewの論文同様に、これから着目される方法論かもしれません。

 ということで、SZさんより推薦いただきました。こちらも長いこと掲載せず申し訳ありません。面白い構造ですけど、考えようによっては有機と無機を混ぜるだけでNatureに載れる!ってことでもありますね。

A Tubular Biocontainer: Metal Ion-Induced 1D Assembly of a Molecularly Engineered Chaperonin
Shuvendu Biswas, Kazushi Kinbara, Nobuhiro Oya, Noriyuki Ishii, Hideki Taguchi, and Takuzo Aida
J. Am. Chem. Soc., Article ASAP ? DOI: 10.1021/ja902696q

 その相田先生の新作は、シャペロンを積み上げてタンパク質のチューブを作ってしまう技術。次から次へと驚くべき論文が飛び出してくる、恐るべし相田マジック。

Self-assembly of a nanoscale DNA box with a controllable lid
Ebbe S. Andersen, Mingdong Dong, Morten M. Nielsen, Kasper Jahn, Ramesh SubramaniWael Mamdouh, Monika M. Golas, Bjoern Sander, Holger Stark, Cristiano L. P. Oliveira,Jan Skov Pedersen, Victoria Birkedal, Flemming Besenbacher, Kurt V. Gothelf & Jorgen Kjems
Nature 459, 736(2009) doi:10.1038/nature07971

 DNAを編み上げて立方体を組んでしまうという恐ろしい技術。こんなのまでできるとなると、実際的な応用も見てみたいと思いますが、さてどんなことができるか?


※興味深い論文などありましたら、mmorg-chem.orgまで(@を半角に変換してお送り下さい)情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。

このほど、筆者が作成に関わりました「創薬化学カレンダー」を発売元からいただきましたので、情報をお寄せいただいた方にプレゼントしたいと思います。3報お送りいただいた方、先着8名ということで。できれば論文の内容に関するコメントもお願いします。どっと一気にまとめて送ってこられると大変なので、できればぼちぼちと。


 ☆安全な実験のために

 少量の酸を含むフルフリルアルコール(2-フランメタノール)を蒸留していたら、突然重合が起こって樹脂状の内容物が飛び散った。

 フランというのは比較的芳香族性が弱く、ジエンとしての性質を強く残しています。このため特に酸の存在下で重合を起こしやすく、時に暴走反応を起こします。あまり危険物のイメージはありませんが、取り扱いに気をつけるべき化合物の一つです。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.9より)

 ☆館長の本棚

 天然物の全合成―2000‐2008(日本) 有機合成化学協会編 5775円

 タイトルそのまま、2000年以降の日本人化学者による天然物全合成をてんこ盛りに収録した本です。試薬や条件など詳しく掲載されており、誰がどのようなアプローチで全合成を行っているか、現在の流れを把握するには最適の本でしょう。研究室の輪講などで最も役に立つ本ではないでしょうか。

 ただ個人的に残念であるのは、ひたすら合成スキームが並んでいるだけで、あと詳しいところは元文献を当たれ、というやや突き放した構成である点。例えばここに、研究者本人からのコメントとか、専門家から見た場合の見どころのような記述が、1行か2行ずつでもいいからついていれば非常にありがたかったと思うのですが。

 やはり最近出版された「化学のブレークスルー(有機化学編)」は、専門家から見た「この論文のここが面白い」というポイントが、しっかり書いてあるのがうれしい点でした。自分よりレベルが高い人の一言というのは、何物にも代え難い貴重なコンテンツです。次回こうした本が出ることがあったら、そのあたりをぜひご考慮いただきたいと思う次第です。


 ☆編集後記

 だいぶ間が空きました。引っ越しによってネットがつながらなかったこと、その他もろもろの理由によります。大変申し訳ありません。

 大学に勤め始めて3ヶ月になろうとしています。思うことはいろいろあるのですが、驚くのは大学の先生方の忙しさです。あちらへ出張し、こちらに申請書を書き、向こうの論文を審査し、そちらの会議に出て……という具合で、とにかく全くひまがありません。独立行政法人化によって資金集めが大変になったことが最大の要因と思いますが、これでは研究を見る時間が全くとれないのでは、と思います。

 政府では「50年でノーベル賞を30個」なんて目標をブチ上げてますけど、そのためには研究資金が必要で、それには企画書やら根回しやら報告書やら、非常に時間を食う作業が必要になります。暴論であり、そうはいかないことは承知の上ですが、「ノーベル賞を獲ってほしければ、黙って金を出してくれ!」と言いたくなる――というのが、端で見ていての感想です。

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