〜〜メルマガ有機化学〜〜

 2008年第14号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記


 ☆今週の反応・試薬 〜 山口ラクトン化反応

 ヒドロキシ基とカルボン酸を持った化合物に、1,3,5-トリクロロベンゾイルクロリド(山口試薬)を作用させてラクトン化する反応。大環状ラクトン化合物の標準的手法ともいえる反応で、山口勝が1981年に報告した。

 まず塩基の存在下でカルボン酸と山口試薬が混合酸無水物を作る。ここに分子内でヒドロキシ基が攻撃してきて、ラクトン環ができあがる。3つの塩素原子は、その電子求引性によってベンゾイル基の脱離能を高め、また立体障害によってヒドロキシ基がベンゾイルのカルボニルを攻撃することを防ぐ役割を持つ。
 多くの場合、混合酸無水物をまず調製しておき、これをDMAPを溶かした大量の溶媒にゆっくり滴下する形式をとる(高度希釈法)。副成するトリクロロ安息香酸は、重曹水洗浄で除ける。

 なお最近、椎名らによって開発された2-メチル-6-ニトロ安息香酸無水物(MNBA)は、山口試薬とほぼ同様に使用できて、山口法よりよい結果を与えていることも多い。

 ※筆者はマクロラクトン化に使ったことはないのですが、分子間でエステル化に適用して非常にうまくいった経験があります。立体障害があり、他の方法でうまくいかない基質がスカッと反応しました。さすが長年生き残る手法は違うなと思ったものです。

(図はWikipedia:山口ラクトン化より
参考文献:人名反応に学ぶ有機合成戦略


 ☆注目の論文

・全合成

Enantioselective total synthesis of callipeltoside A: two approaches to the macrolactone fragment
David A. Evans Jason D. Burcha, Essa Hua and Georg Jaeschke
Tetrahedon ASAP DOI:10.1016/j.tet.2008.02.001

マクロライド全合成。もちろんきれいにできあがっているんですが、MacMillanのを見た後だとなんだか古典的な全合成に見えてしまう気もします。

Asymmetric Synthesis of (?)-Incarvillateine Employing an Intramolecular Alkylation via Rh-Catalyzed Olefinic C?H Bond Activation
Andy S. Tsai, Robert G. Bergman, and Jonathan A. Ellman
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:10.1021/ja8012159

ロジウムを使ったC-H結合活性化反応が鍵段階。次から次へと新しい反応形式が出てきますね。

・反応

Enantioselective Iridium-Catalyzed Carbonyl Allylation from the Alcohol or Aldehyde Oxidation Level Using Allyl Acetate as an Allyl Metal Surrogate
In Su Kim, Ming-Yu Ngai, and Michael J. Krische
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:10.1021/ja802001b

アリルエステルとイリジウム触媒によって、一級アルコールのα位をC-アリル化する「ウソだろ!?」といいたくなるような反応形式。そういうもんですか、としかいいようがないです。

Carbocation Watching in Solvolysis Reactions
Heike F. Schaller, Herbert Mayr
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200800354

目で見るSN1反応。試薬の溶液に水を注ぐとカチオンが出て溶液が青く変化し、やがて水と反応して色が消失するのが観察できるんだそうです。教育用にいいんじゃないでしょうか。こちらから動画も鑑賞可能のようです。

A Rational Approach towards the Nucleophilic Substitutions of Alcohols on Water
Pier Giorgio Cozzi, Luca Zoli
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200800622

二級アルコールと求核剤の反応が「水中」ではなく「水上」で行える。「On water」反応って流行ってるのかな?

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 今回はオキシム化合物について。

 下図の化合物を扱っていた製薬会社研究員が、27歳で重いパーキンソン病を発病した。治療を続けているが、9年後も回復していない。この化合物は揮発性で、体内に蓄積して哺乳類にパーキンソン病の症状を引き起こすことが明らかになった。

 このたぐいの骨格は、特に中枢系の医薬には頻出する構造です。他にも危険なものがあるかもしれません。十分注意して取り扱って下さい。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.65より)


 ☆館長の本棚

 編集長おすすめの本をご紹介。化学分野に限らないかもしれません。

最新分子マシン―ナノで働く“高度な機械”を目指して

(化学同人、2625円)

 文字通り、分子ペンチや分子ボールベアリング、ナノカーといった、「分子マシン」の最新事情。若手研究者の解説文が主体になっています。ページをパラパラめくるだけでも「化学の未来」が垣間見える感じで、こういうのは個人的に非常にワクワクします。


 ☆編集後記

 さてゴールデンウィーク、みなさまいかがお過ごしでしょうか。僕は今やこういう商売ですので世間とはずらして動こうと思っていたわけですが、どうやら暫定税率がどうたらでまたガソリンが上がりそうなので、今のうちに走りに行ってくるかなと。てなことで来週はこのメルマガもお休みをいただきます。あしからず。

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