〜〜メルマガ有機化学〜〜

 2008年第12号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記


 ☆今週の反応・試薬 〜 Pinnick酸化

亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)を酸化剤として用い、アルデヒドをカルボン酸へと酸化する反応。この反応では途中副生物として次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)が生じ、これが副反応を引き起こす。このためトラップ剤として2-メチル-2-ブテンを大過剰加える処方が1981年にH. W. Pinnickによって発表され、これがスタンダードとなっている。

 溶媒としてはt-BuOH−水系がよく用いられ、THFなどを補助溶媒として加えることもある。この溶媒にアルデヒドと2-メチル-2-ブテンを溶かし、ここに亜塩素酸ナトリウムとリン酸二水素ナトリウム緩衝液を室温で滴下するのが典型的な実験条件となっている。

 注意点として、亜塩素酸ナトリウムの遷移金属存在下では不安定であるため、シリンジではなくパスツールピペットを用いるのが無難である。亜塩素酸ナトリウムは使用直前に緩衝液に加えて調製する。また水酸基などは酸化されないため、保護の必要はない。

※以前はカルボン酸への酸化はJones酸化などが用いられていましたが、強酸性条件であること、有害廃棄物を出すことなどが問題となります。このため近年ではSwern酸化→Pinnick酸化の2段階法が用いられることがほとんどです。


 ☆注目の論文

・全合成

A Concise Synthesis of (-)-Oseltamivir (p NA)
Barry M. Trost, Ting Zhang
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200800282

 タミフルの短段階合成。不斉アリル位アルキル化反応を鍵段階とし、わずか8段階、全収率30%を達成。おみごとです。

Synthetic Studies on Maitotoxin. 2. Stereoselective Synthesis of the WXYZA′-Ring System
Masayuki Morita, Tasuku Haketa, Hiroyuki Koshino, and Tadashi Nakata
Org. Lett.ASAP DOI:10.1021/ol800268c

Total Synthesis of (+)-Oocydin A: Application of the Suzuki-Miyaura Cross-Coupling of 1,1-Dichloro-1-alkenes with 9-Alkyl 9-BBN (p NA)
Emmanuel Roulland
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200800585

Second-Generation Total Synthesis of Haterumalide NA UsingB-Alkyl Suzuki?Miyaura Coupling
Hayakawa, I.; Ueda, M.; Yamaura, M.; Ikeda, Y.; Suzuki, Y.; Yoshizato, K.; Kigoshi, H.
Org. Lett.; 2008; ASAP Article;  DOI: 10.1021/ol800554f

 この2つ、名前は違うが同じ化合物です(他にFR177391という名もあり)。どちらもB-アルキル鈴木-宮浦カップリングを鍵段階にしています。見比べると面白いです。

Total Synthesis of (+)-Neopeltolide by a Prins Macrocyclization
Angewandte Chemie International Edition
Volume 47, Issue 17, Date: April 14, 2008, Pages: 3242-3244
Sang Kook Woo, Min Sang Kwon, Eun Lee

 最後にそこで巻くんですか?と思ってしまうストラテジー。

Development of a Chemoenzymatic Manufacturing Process for Pregabalin
Carlos A. Martinez, Shanghui Hu, Yves Dumond, Junhua Tao, Patrick Kelleher, and Liam Tully
Org. Proc. Res. Dev. ASAP (Article) DOI:10.1021/op7002248

 プレギャバリンのプロセス合成。巨大スケールの場合こういうところを検討するんだな、と勉強になります。

・反応

A Chiral Hypervalent Iodine(III) Reagent for Enantioselective Dearomatization of Phenols (p NA)
Toshifumi Dohi, Akinobu Maruyama, Naoko Takenaga, Kento Senami, Yutaka Minamitsuji, Hiromichi Fujioka, Simon B. Caemmerer, Yasuyuki Kita
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200800464

 IBXを不斉化したような酸化剤を設計し、ユニークな酸化的ラクトン化を実現。

Catalytic CbondC, CbondN, and CbondO Ullmann-Type Coupling Reactions: Copper Makes a Difference
Angewandte Chemie International Edition
Volume 47, Issue 17, Date: April 14, 2008, Pages: 3096-3099
Florian Monnier, Marc Taillefer

 Ullmannカップリング、銅のリガンドによっていろいろと選択性が変わるという話。

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 今回はDMF溶媒について。

 DMF100mlに過マンガン酸カリウム20gを振り混ぜて溶かしたところ、20分後に爆発した。また三酸化クロムを溶かした場合も発火・爆発した。

 DMFは常用される溶媒ですが、酸化剤と混合するのは危険です。また金属ナトリウムとの混合でも発火・爆発することがあります。溶媒の選択は正しく、慎重に行いましょう。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.31より)


 ☆館長の本棚

 編集長おすすめの本をご紹介。化学分野に限らないかもしれません。

H5N1型ウイルス襲来―新型インフルエンザから家族を守れ!

 タミフル関連の資料として買いましたが、改めて新型インフルエンザというのはシャレにならんのだなあと恐ろしくなる一冊です。厚労省の試算では死亡率2%としていますが、現状の60%からほとんど下がらず大流行する懸念もあるようです。著者岡田晴恵氏は国立感染症研究所の研究員ですので、内容も信頼できるものと思います。精神面でも物質面でも、準備を整えておくべきですね、これは。


 ☆編集後記

 フリー生活はヒマかなと思っていたら、結構忙しくなって参りました。ま、いいことですけども。このメルマガはそれでも欠かさず発行していきたいと思いますので、情報その他みなさまのご支援をよろしくお願いします。

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