〜〜メルマガ有機化学〜〜

 2008年第11号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記


 ☆今週の反応・試薬 〜 Dess-Martin酸化

 1983年、D.B. DessとJ. C. Martinによって報告された酸化剤。IBX(下図真ん中)は有機溶媒への溶解性が悪く、爆発性があるためあまり使われてこなかったが、アセチル化することにより有用な酸化剤となった。
調製の際、かつては1段階目に臭素酸カリウムが用いられていたが、OXONEを用いる方が簡便。また2段階目のアセチル化は0.5%程度のトシル酸を加えることで再現性よく進行する。ただし前述のようにIBXは強い爆発性があるので、購入する方が無難である。

 酸化反応に用いる際には主にジクロロメタンなどの溶媒を用いる。アルコールを対応するカルボニル化合物に穏和な条件で酸化し、カルボン酸などへの 過剰酸化は起こさない。反応系内にエステル・アミド・アミンなどがあっても問題なく反応が進行する。酸に不安定な基質の場合は、トリエチルアミンなどを添 加しておいてもよい。

 また、ジチオアセタールに作用させることで、対応するカルボニル化合物への脱保護が行える。アルデヒド・アジ化ナトリウムと共に撹拌すると、対応するアシルアジドが得られる。

 後処理はチオ硫酸ナトリウム・飽和重曹水を加えてしばらく撹拌し、有機層を抽出することで多くの場合ほぼ純粋な目的物が得られる。


 ☆注目の論文

・全合成

Synthetic Studies on Maitotoxin. 1. Stereoselective Synthesis of the C′D′E′F′-Ring System Having a Side Chain
Masayuki Morita, Seishi Ishiyama, Hiroyuki Koshino, and Tadashi Nakata
Org. Lett. ASAP  DOI:10.1021/ol800267x

Synthetic Studies on Maitotoxin. 2. Stereoselective Synthesis of the WXYZA′-Ring System
Masayuki Morita, Tasuku Haketa, Hiroyuki Koshino, and Tadashi Nakata
Org. Lett.ASAP DOI:10.1021/ol800268c

Synthetic Studies on Maitotoxin. 3. Stereoselective Synthesis of the BCDE-Ring System
Masanori Satoh, Hiroyuki Koshino, and Tadashi Nakata
Org. Lett. ASAP  DOI:10.1021/ol8002699

 マイトトキシンキターーー!!!としか言いようがないですね。32の環を持つ天然最後の怪物、いよいよ本格攻略開始でしょうか。

Total Synthesis of (-)-Pestalotiopsin A
Ken-ichi Takao, Nobuhiko Hayakawa, Reo Yamada, Taro Yamaguchi, Urara Morita, Soujiro Kawasaki, Kin-ichi Tadano
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200800253

 4員環環化、アセチレン形成、最後はNHK反応で9員環形成など見所が多く、見事です。

Total Synthesis and Structural Revision of Callipeltoside C
Joseph Carpenter, Alan B. Northrup, deMichael Chung, John J. M. Wiener, Sung-Gon Kim, David W. C. MacMillan
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200800086

 MacMillanらしくプロリンを随所に使って見せます。最初のTHP環合成で「おっ」と思わせます。

・反応

Asymmetric Epoxidation of Olefins with Hydrogen Peroxide - Catalysis by an Aspartate-Containing Tripeptide
Albrecht Berkessel
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200705326

 トリペプチドを触媒とし、過酸化水素を酸化剤とする不斉エポキシ化。ほんとにこの機構でこんなeeが出るの?という気もしてしまいますが。

・超分子

Self-Assembly of a DNA Dodecahedron from 20 Trisoligonucleotides withC3hLinkers
Jan Zimmermann, Martin P. J. Cebulla, Sven Monninghoff, Gunter von Kiedrowski
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200702682

DNAを素材として正12面体を組み上げてしまいましたという話。この分野はどんどん進歩してますね。

・その他

Thermochemical and Physical Properties of Element 112  (p 3262-3266)
Robert Eichler, Nikolay V. Aksenov, Alexey V. Belozerov, Gospodin A. Bozhikov, Victor I. Chepigin, Sergey N. Dmitriev, Rugard Dressler, Heinz W. Gaggeler, Alexander V. Gorshkov, Mikhail G. Itkis, Florian Haenssler, Andreas Laube, Viacheslav Ya. Lebedev, Oleg N. Malyshev, Yuri Ts. Oganessian, Oleg V. Petrushkin, David Piguet, Andrei G. Popeko, Peter Rasmussen, Sergey V. Shishkin, Alexey A. Serov, Alexey V. Shutov, Alexander I. Svirikhin, Evgeny E. Tereshatov, Grigory K. Vostokin, Maciej Wegrzecki, Alexander V. Yeremin
Angew. Chem. Int. Ed. 47, 3262 (2008) DOI: 10.1002/anie.200705019

 112番元素の化学的性質の解明。半減期0.2秒の112番元素を合成、数回の実験を繰り返した結果、沸点が357K程度の揮発性の高い金属ではないかという結論。絶句ですね。

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 今回は四酸化オスミウムの扱いについて。

 四酸化オスミウムは固体だが蒸発しやすく、独特の臭気を持つ。この蒸気は毒性が高く、目にはいると 一時的に視力が低下する。容器から出す際にはよく冷却した上で開封し、手袋と眼鏡を装着の上で必ずドラフト内で取り扱う。テフロン製撹拌子は樹脂が酸化さ れて黒変・劣化するので、使ってはならない。

 よく使う酸化剤ですが、危険性も高いもののひとつです。吸い込むと呼吸器・粘膜などがやられます。溶液で売っているもの、マイクロカプセルタイプもありますので、こちらを利用するのもよいかと思います。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.110より)


 ☆館長の本棚

 編集長おすすめの本をご紹介。化学分野に限らないかもしれません。

ナノカーボンの科学 (ブル-バックス)

 金属内包フラーレンの第一人者・篠原久典名大教授によるフラーレン・ナノチューブ発見物語。第一線の研究者ならではの生々しい現場の物語が綴られ ています。内包フラーレン構造決定などは、研究者としてまさにしびれる瞬間であっただろうなと思います。しかしそろそろナノチューブにもノーベル賞が出て しかるべきと思うのですが、どうなるんでしょうかね。


 ☆編集後記

メルマガの内容ですが、ご覧の通り完全に研究室にいる大学院生・研究者向けに設定しています。自分としてはメルマガを研究者に向けて、HP・ブログ は一般に向けて広くというつもりで棲み分けを考えているのですが、「メルマガが専門的すぎる」という意見も目にして迷っております。このあたり、ご意見あ ればメールででもお願いいたします(メールアドレス先頭の「nospam.」を削って送信して下さい)。

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